感想

2021/4/09 フェイクニュース

公演情報

2021/4/09 劇団PU-PU-JUICE 第29回公演「フェイクニュース」

19:00開演 @シアタートラム

出演:飯窪春菜 / 寺中 寿之 / 南 圭介 / 山口 大地 / 麻木 玲那 / 福島 善成(ガリットチュウ) / 下尾 みう / 石栗 昌彦 / 大対 源 / 岩永 ひひお / 三澤 優衣 / 寺町 徹

劇団PU-PU-JUICE
山本 浩貴 / 長島 慎治 / 中野 マサアキ / 西山 咲子 / 久米伸明 / 松原 功 / 伊藤 桃香

作・演出:山本浩貴

あらすじ(結構ネタバレアリ)

舞台は「下衆の女王」など、色々な言葉や文章が天井や壁から吊るされている。

床面は新聞紙を敷き詰めたようなデザイン。

左奥の少し高いところに「ゆうじ」ののぼり。

飯窪春菜さん(以降はるなん)が上手袖から一人で現れ、上手1列目のお客さんと会話、下手1列目のお客さんと会話して始まる。

服装は赤を基調とした太めのストライプのサテン生地のブラウスにジャケット、黒のワイドパンツに赤いヒール。髪の毛は巻いておろした状態。

一人目お客さんへは「どこから見に来たのか」と質問。まさかの名古屋からのお客さんだった。会話は一見「はるなん」としての会話のようにも思えるけれども少しの違和感がある。

二人目のお客さんには「最近知ったニュース」を聞く。そのお客さんは無いと答えたが、はるなんは動じず「私は有吉さんの結婚くらいかなぁー」と独りごち、そこから「自分が知っている事と知らない事」を語りだす。

例えば砂漠という場所があることは知っているが、砂漠の暑さや砂嵐の激しさを実感できる程には知らないということを語る。

東日本大震災で亡くなった方の人数は知っているが、亡くなった方が最後に何を見て、何を思ったのかは知らない…など。

はるなんが演じるのは泉川真琴という「ゲスの女王」の異名を持つジャーナリスト。

今思えば導入部分はやや「はるなん」として客席と絡み、そこから物語の世界、泉川マコトの世界にシームレスに繋げるという事をやってのけていたのだ。

泉川真琴が次期首相の呼び声高い若い男性政治家と、元清純派アイドルで現在俳優として活躍する女性とのホテルでの密会を「肉体関係を伴う不倫」として報じる事から物語が展開していく。

密会していた二人は必死に「ホテルで会っていたことは事実だが、不倫ではない」と釈明するが、真琴が書いたセンセーショナルな記事の効果で世間は不倫として認識してしまう。

そんなおり、帰宅した真琴に同居している曾祖母が曽祖父の形見だという壊れた懐中時計をプレゼントする。

真琴が部屋で一人懐中時計を見ていると、なんと、真琴は第二次世界大戦中のとある新聞社にタイムスリップし、若き日の曽祖父テツジと曾祖母ハルとその仲間たちと出会う。

「絶対に真実を書く」と決めているテツジの信念と行動に触れる事によって、”売れるネタ”であればフェイクニュースも厭わないマコトの心に変化が産まれてくる…。

作品への感想

昨今の有名人が何か一つでも失敗すると叩きに叩く風潮や、ページビューが稼げればフェイクニュースもいとわず発信する人がいることや、ニュースの真偽を確かめる事なく妄信的に信じてしまう人がいる事への警鐘を感じた。

また、第二次世界大戦時の軍、新聞社、国民それぞれが知り得た情報と、発信した情報と、受け取り手の受け止め方を端的にわかりやすく、しかしながら自然な流れでみせてくれた。

一言でいうとジャーナリストとは、ジャーナリズムとはという事を考えてみるきっかけになる作品という感じかな。

シリアスながらもテンポ良い演技・演出

緊迫感と人情味あふれるエピソードと折々に挟まれるユーモアとがとても良いテンポとなっていて、飽きたり間延びする事が無い2時間だった。

はるなん主演という所を差し引いて考えてもとても良い作品・舞台だったと思う。

現代の居酒屋「ゆうじ」の店名の由来や、真琴がタイムスリップして見たハルはテツジに心底惚れ込んでいたのに、現代のハルがテツジの事を語る時には「大嫌い」と言い切る理由など、伏線回収がとても自然で面白かった。

あ、タイムスリップしたマコトが若い姿のハルが自分の曾祖母だと気が付くトリックも冴えてた。

ハルさん、良いキャラしてたなー。

飯窪春菜さん

私ははるなんこと飯窪春菜さんの事が大好きだ。顔も声も指もトークも歌も好きだ。

モーニング娘。にいるころ、モーニング娘。メンバーが中心となってのミュージカルを行う時に出演者として選ばれなかったという時代があった。それでも「演技のお仕事をしたい」という自分の願望を見つめて、主張して、行動している姿が本当に尊いと思う。(最終的にはモーニング娘。時代にもミュージカルに出演し、良い演技をしている)

そんな私であっても、今回の作品のはるなんには度肝を抜かれた。誠に申し訳ないが、ここまでできる人だと思っていなかった自分に気が付かされた。

始めの東日本大震災のエピソードのくだりで、「逃げてー!」と叫ぶ声を聞いて、驚いた。こんな声が出る人だと知らなかった。

全身全霊で泉川マコトという人間に向かい演じている姿は、私が知っていると思っていたはるなんよりも数百倍のエネルギーを持っていた。

一挙手一投足、何かを言おうとして、ためらって・・・という時に指が動くさまも泉川マコトとしてその場にいるという感じがした。

ますます好きになった。

正直なところ、「元アイドルの主演舞台」という謳い文句の舞台作品を見て、作品自体が好きになれなかったり、舞台役者さんの中で明らかに声量が足りないという経験がある。

あくまでも私の主観であるが、この作品ならびにはるなんにはそういう部分が微塵もない。

本当に色々な人に見てほしいと思う。

今日のボキャブラリー

「ゲスの女王」と言われているという設定だった。

ゲス(下衆)とは、下劣な性格の、いやらしい人、といった意味合いで用いられることの多い表現。

Weblio

英語でなんて言うんだろうと思って調べてみたが、色々な表現があったものの、今回の「ゲスの女王」に当てはまりそうなものは見つからなかった。

悪口を他言語で表現するときのニュアンスも難しいもんだ。